「電気主任技術者の資格(電験)は取得したけれど、実務経験がない…」
「これから電気主任技術者を目指したいけど、実務経験はどうやって積めばいいの?」
難関資格である電気主任技術者の免状を手にしても、多くの人が「実務経験」という壁に直面します。電気主任技術者として正式に選任されるためには、法律で定められた実務経験が不可欠です。
この記事では、電気主任技術者に必要な実務経験とは何か、そして未経験から着実に経験を積み、キャリアアップしていくための具体的な方法を、分かりやすく解説します。
そもそも電気主任技術者の「実務経験」とは?
まず、基本となる「実務経験」の定義から確認しましょう。電気主任技術者の実務経験とは、**「電気工作物の工事、維持又は運用に関する業務」**を指します。
具体的には、以下のような業務が該当します。
- 保守・点検業務:
- 月次点検、年次点検などの定期的な保安業務
- 受変電設備の動作確認、絶縁抵抗測定、接地抵抗測定など
- 監督業務:
- 電気工事の計画・施工管理、保安監督
- 管理・運用業務:
- 官公庁(経済産業省など)への保安規程の届出、各種書類の作成・管理
- 電力会社との協議
- 設備の更新・改修計画の立案
- 緊急時対応:
- 停電や電気設備のトラブル発生時の原因究明と復旧対応
実務経験として認められにくい業務
一方で、以下のような業務は実務経験として認められない可能性が高いので注意が必要です。
- 単なる電気工事作業(電気工事士としての作業)
- 電気設備の設計・製図のみ
- 電気機器の製造・組み立て
- コンサルティング業務のみ
重要なのは**「保安監督」**という視点です。自らが主体的に電気工作物の保安に携わった経験が求められます。
免状の種類と学歴で変わる!必要な実務経験年数
電気主任技術者の免状を取得するには、「試験合格」と「認定」の2つのルートがあり、特に認定で取得する場合は実務経験が必須となります。また、試験合格者が上位の資格(例:三種→二種)を目指す際にも実務経験が必要です。
必要な実務経験年数は、免状の種類と学歴によって異なります。
免状の種類 | 資格 | 学歴 | 必要な実務経験年数 |
第一種 | 試験合格者 | – | 5年以上 |
認定 | 大学卒業者 | 5年以上 | |
第二種 | 試験合格者 | – | 5年以上 |
認定 | 大学卒業者 | 3年以上 | |
短大・高専卒業者 | 5年以上 | ||
第三種 | 認定 | 大学卒業者 | 1年以上 |
短大・高専卒業者 | 2年以上 | ||
高等学校卒業者 | 3年以上 |
※上記の年数は、所定の単位を修得して卒業していることが前提です。詳細は経済産業省のウェブサイトでご確認ください。
【未経験からOK】実務経験の具体的な積み方5選
では、未経験者はどこで、どのように実務経験を積めばよいのでしょうか。主な選択肢は以下の5つです。
1. ビルメンテナンス(設備管理)会社
最もポピュラーな選択肢の一つです。オフィスビルや商業施設、病院などの受変電設備(キュービクル)の保守・点検業務を担当します。
- メリット: 未経験者向けの求人が多く、多くの現場を経験できる。電験三種の資格があれば採用で有利になりやすい。
- デメリット: 給与水準が比較的低い場合がある。緊急対応で夜間や休日の出勤があることも。
2. 工場(メーカー)
自家用電気工作物を持つ工場で、設備の維持管理を担当します。工場の生産ラインを止めないという重要な役割を担います。
- メリット: 一つの設備に深く関わることができ、専門性が高まる。メーカーの正社員として安定した待遇が期待できる。
- デメリット: 求人数がビルメンテナンス会社に比べて少ない傾向がある。
3. 電気保安法人
外部委託を受けて、中小規模の事業所の電気保安業務を代行する組織です。複数の顧客を担当し、定期的に巡回点検を行います。
- メリット: 様々な種類の設備に触れる機会があり、幅広い知識と経験が身につく。独立開業も視野に入れられる。
- デメリット: 高いコミュニケーション能力と自己管理能力が求められる。未経験からの就職はハードルが高い場合も。
4. 再生可能エネルギー関連企業
太陽光発電所や風力発電所などのO&M(運用・保守)部門も有力な選択肢です。今後も成長が見込まれる分野です。
- メリット: 最先端の技術に触れられる。将来性が高い。
- デメリット: 発電所が郊外にあることが多く、勤務地が限定される場合がある。
5. 派遣社員・契約社員から始める
いきなり正社員が難しい場合は、派遣や契約社員として経験を積むのも一つの手です。「設備管理」「電気主任技術者 補助」といったキーワードで求人を探してみましょう。経験を積んでから正社員を目指すキャリアパスも描けます。
キャリアの証明「実務経歴証明書」を意識しよう
実務経験を積んだ後、免状の認定申請や上位資格への挑戦の際に必要となるのが**「実務経歴証明書」**です。
これは、自身がどのような電気工作物で、どのような業務に、どれくらいの期間携わったかを具体的に記述し、勤務先の代表者から証明印をもらう非常に重要な書類です。
実務経験を積む上で、以下の点を常に意識しておきましょう。
- 日々の業務内容を記録する: いつ、どこで、何を、どのように行ったか、具体的な数値を交えてメモしておく。
- 図面や点検記録を整理する: 自分が関わった設備の単線結線図や点検記録などをファイリングしておく。
- 上司や先輩と良好な関係を築く: 証明書への押印をスムーズにお願いするためにも、日頃のコミュニケーションは大切です。
将来、証明書を作成する際に「何を書けばいいか分からない…」とならないよう、日々の業務を「これは実務経験になるか?」という視点で見つめ、記録する習慣をつけましょう。
まとめ:資格と経験の両輪で、価値あるエンジニアへ
電気主任技術者は、資格取得がゴールではありません。実務経験を積み、現場で活かしてこそ、その真価が発揮されます。
未経験からのスタートは不安に思うかもしれませんが、電験という強力な武器があれば、道は必ず開けます。ビルメンテナンス、工場、再生可能エネルギーなど、活躍の場は多岐にわたります。
まずはこの記事で紹介した選択肢の中から、自分に合ったキャリアプランを探し、一歩を踏み出してみてください。日々の業務を実務経歴証明書を意識して記録することで、着実にキャリアアップしていくことができるでしょう。あなたの挑戦を応援しています。
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