「電験3種」と「行政書士」。電気技術者の登竜門ともいえる理系資格と、法律系の文系資格の代表格。一見すると全く接点のないこの2つの資格ですが、なぜこの組み合わせで検索する方がいるのでしょうか。
それは、現在のキャリアに新たな可能性を加えたい、あるいは、他者にはない独自の専門性を武器に独立開業を目指したい、という強い想いがあるからかもしれません。
この記事では、「電験3種×行政書士」という異色のダブルライセンスがもたらす可能性、それぞれの資格の難易度や特性、そして、どのような人におすすめなのかを徹底的に解説します。
電験3種と行政書士:まずは基本情報を理解しよう
全く異なる分野の資格だからこそ、まずはそれぞれの特徴を正確に把握することが重要です。
項目 | 第三種電気主任技術者(電験3種) | 行政書士 |
資格の性質 | 国家資格(理系) | 国家資格(文系・法律系) |
主な業務 | 電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物の工事、維持、運用の保安監督 | ・官公署に提出する許認可等の書類作成・提出手続代理<br>・権利義務や事実証明に関する書類の作成代理 |
活躍の場 | 工場、ビル、商業施設、再生可能エネルギー発電所などの電気設備の管理者、保安法人、電気工事会社など | 独立開業、行政書士法人、企業の法務部、コンサルティング会社など |
キャリアパス | 企業内で電気主任技術者としてキャリアを積む。経験を活かして転職や上位資格(電験2種など)を目指す。 | 独立開業を目指す人が多い。特定の専門分野(建設、風営、相続など)を極めることでキャリアを築く。 |
電験3種は、電気設備の安全を守る「技術の専門家」です。現場での実務知識や計算能力が求められ、一度取得すれば全国どこでも通用する安定性の高い資格と言えます。
一方、行政書士は、許認可申請などを通じて人と行政をつなぐ「手続きの専門家」。法律知識を駆使してクライアントの事業や生活をサポートし、独立開業という選択肢が現実的なのが大きな特徴です。
難易度を徹底比較!合格への道のりはどちらが険しい?
合格率だけで見ると、電験3種の方が低く、難関に見えます。しかし、試験の性質が全く異なるため、一概にどちらが難しいとは言えません。
項目 | 電験3種 | 行政書士 |
合格率の目安 | 約10%~15%前後(科目合格制あり) | 約10%~13%前後 |
試験形式 | マークシート方式(計算問題が多い) | 択一式、多肢選択式、記述式 |
必要な勉強時間 | 1,000時間以上 | 600~1,000時間 |
求められる能力 | 数学的思考力、物理(電気理論)の理解、計算能力 | 法律知識の正確な暗記、読解力、文章構成力 |
電験3種の難しさは、高校レベル以上の数学・物理の知識が必須である点です。特に数学に苦手意識がある方にとっては、非常に高い壁となります。ただし、4科目すべてを一度に合格する必要はなく、「科目合格制」があるため、数年かけて計画的に合格を目指すことが可能です。
行政書士の難しさは、出題範囲の広さと、記述式問題の存在です。憲法、民法、行政法など膨大な法律知識を正確に記憶し、かつ、40字程度の記述式問題で的確に解答する能力が求められます。法律初学者にとっては、特有の言い回しや考え方に慣れるまで時間が必要です。
結論として、あなたの得意分野によって難易度の感じ方は大きく異なります。
- 理系で計算が得意な方 → 電験3種の方が取り組みやすい可能性
- 文系で暗記や読解が得意な方 → 行政書士の方が取り組みやすい可能性
ダブルライセンスのシナジーは?「電気に強い行政書士」という強み
学習範囲が全く重ならないため、この2つの資格のダブルライセンス取得は非常に困難です。しかし、だからこそ、両方の知識を持つ人材は希少価値が高く、特定の分野で絶大な強みを発揮します。
その最大の舞台となるのが、建設業・エネルギー業界です。
行政書士の主要業務の一つに「建設業許可申請」があります。そして、建設工事の中には当然「電気工事」も含まれます。
具体的なシナジーの例
- 再生可能エネルギー事業のワンストップサポート太陽光発電所や風力発電所の設置には、技術的な知識(電気工作物に関する知識)と、法的な手続き(農地転用許可、開発許可、事業計画認定申請など)の両方が不可欠です。
- 電験3種の知識:事業計画の技術的な妥当性を理解し、クライアントや他の技術者と円滑にコミュニケーションが取れる。
- 行政書士の知識:複雑な許認可手続きを代行する。 この両面から事業者をサポートできる専門家はほとんどいません。「再エネ専門の行政書士」として、唯一無二のポジションを築くことができます。
- 工場・大規模施設のコンサルティング大規模な工場や施設では、省エネ化や設備の更新が常に課題となります。これには、国や自治体の補助金が活用されるケースが多くあります。
- 電験3種の知識:どのような設備を導入すれば省エネ効果が高いか、技術的なアドバイスができる。
- 行政書士の知識:補助金の申請書類作成や手続きを代行する。 技術と法務の両面からコンサルティングできるため、クライアントから絶大な信頼を得られるでしょう。
- 建設業許可・経営事項審査(経審)での付加価値電気工事業を専門とする行政書士として、クライアントである電気工事会社と深く関わることができます。技術的な会話が理解できるため、単なる手続き代行に留まらない、事業そのものへの深い理解に基づいたコンサルティングが可能になります。
結論:どのような人が目指すべきか?
この異色のダブルライセンスは、万人におすすめできるものではありません。しかし、以下のようなキャリアプランを描く方にとっては、挑戦する価値のある魅力的な選択肢となります。
- すでに行政書士で、専門性を高めたい方建設業やエネルギー分野を専門にしたいと考えているなら、電験3種の知識は他者との強力な差別化要因になります。資格取得まではせずとも、関連知識を学ぶだけでも業務の質は大きく向上するでしょう。
- すでに電験3種を持っていて、独立を考えている方技術者としてのキャリアだけでなく、独立開業という道に魅力を感じるなら、行政書士資格は非常に有効です。自身の技術的バックボーンを活かせる分野に特化することで、成功の確率を高めることができます。
- これから資格取得を目指す方へもしあなたが学生や全くの異業種にいるのであれば、まずはどちらか一方の資格に集中することを強く推奨します。
- 安定した企業で技術者として活躍したい → 電験3種
- 独立開業して自分の力で勝負したい → 行政書士
まずは自身の目指すキャリアの軸を定め、一つ目の資格を取得しましょう。その上で、さらなるステップアップとして、もう一方の資格取得を検討するのが最も現実的な道筋です。
「電験3種」と「行政書士」。この2つの資格は、あなたのキャリアを照らす強力な2つの「光」となるポテンシャルを秘めています。この記事が、あなたの未来を考える一助となれば幸いです。
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